深圳(深セン)が中国のシリコンバレーと呼ばれる理由とは
皆さんは、”中国のシリコンバレー”と呼ばれる深圳(深セン)をご存知でしょうか?深圳を一言で言うと、中国南東部にある『ガラパゴス移民都市』であり、30年前までは何もありませんでした。
そんな深圳が昨今テクノロジーの聖地と化し、ドローンやIoT、AIの製品を次々と世に送り出しています。今回は、自身の視察訪問の体験をもとに深圳の歴史から最新情報までをまとめた、深圳シリーズ記事第1弾をお届けいたします。
この記事では以下の3つのことが分かります。
①深センの歴史と立地、華強北について
②コピーからイノベーションへの産業の変遷
③深センにある、身近な企業
深圳の歴史と立地
冒頭に深圳は30年前まで何もなかったとお伝えしましたが、1980年に鄧小平(ドンシャオピン)の改革開放路線で宝安県を深圳市に昇格させ、深圳経済特区に指定したことが全ての始まりでした。
これにより、中国国内の労働者が深圳に集結し、広東省にありながら広東語ではなく中国語(マンダリン)が主に使われるガラパゴスな移民大都市がたったの30年で誕生したのです。
秋葉原の30倍規模? 深圳の電気街、華強北(ファチャンベイ)
なお、立地としては香港の北隣にあります。香港までは国境を越える必要がありますが、香港から地下鉄で気軽に深圳(中国)に入ることができます。また、中国の新幹線、高鉄(ガオティエ)に乗ると、たったの30分で巨大都市・広州に移動することができるのです。
深圳北駅⇔広州南駅を時速約300kmで繋ぐ高鉄
「一帯一路」と「PRD」
深圳は、中国の総書記である習近平(シージンピン)氏が進める中国式経済圏構想、”一帯一路”の最前線と言われています。視察訪問中に現在急ピッチで建設中の巨大大橋を垣間2つ見ることができました。
1つ目は全長35km、香港空港からマカオ・珠海までを繋ぐ港珠澳大橋(Hong Kong–Zhuhai–Macau Bridge)、2つ目は深圳から広州にかけての巨大な橋です。
電車内から撮影した建設中の港珠澳大橋
また、深圳を含むこのエリア一帯は”珠江デルタ”(Pearl River Delta:通称PRD)と呼ばれ、このエリアだけで6600万人の人口を有し、広州・深圳・マカオそして香港と巨大都市が数多く集まっています。最近の世界銀行のレポート(East Asia’s Changing Urban Landscape: Measuring a Decade of Spatial Growth)によると、この珠江デルタは既に東京の経済規模を超え、イギリスとほぼ同じ規模にあたります。
また、英Economist紙のレポート(What China can learn from the Pearl river delta)では、この珠江デルタの地理的サイズが中国の1%以下で、人口は全体の約5%にすぎないにも関わらず、中国全土の10%以上のGDPを生み出し、海外への輸出の約25%がこのエリアから生まれていると報じられています。同紙の特集では、ハードウェアに関して、米国シリコンバレーは珠江デルタよりも6〜7年遅れているとまで伝えています。
コピー製品量産の街からイノベーション都市へ
香港と広州という巨大都市を上下に抱え、世界にモノ・サービスを輸出するようになった赤いシリコンバレー、深圳はもはやイノベーション都市へと昇華したと言っても過言ではないでしょう。それでは、なぜ深圳が中国のシリコンバレーに君臨したのか、考えられる要因を3つ挙げたいと思います。
要因1:国際特許申請数の急増
まずはイノベーションに関連する特許にフォーカスを当てたいと思います。英Economist紙のレポート(Shenzhen is a hothouse of innovation)によると、2000年代の国際特許申請数は、1位米国、2位日本と圧倒していましたが、現在は中国が猛烈な勢いで追いついてきており、2017年中に日本は中国に抜かされ、第3位に下る可能性が高いと言われています。
要因2:深センの都市計画
1980年の改革開放により経済特区となって以降、様々な交通インフラの整備によって未来都市と呼ばれるまでに急成長したことも要因の1つではないでしょうか。香港と巨大消費都市広州までのアクセス・交流が劇的に改善したことで、各企業がグローバル展開しやすくなったのです。この流れは既述の港珠澳大橋が完成した際にさらに加速していくことでしょう。なお、この巨大大橋は今年、2017年内に開通予定です。
要因3:ビジネス生態系の変化
新しいモノとITの融合による革命を描く『MAKERS — 21世紀の産業革命が始まる』の著者、クリス・アンダーソン氏は2014年に深圳で開催された『メイカーフェアー深圳2014』にて、「20世紀は企業と企業、製品と製品の戦いであったが、今世紀は生態系と生態系の戦いになる」と述べています。実際に、シリコンバレーに拠点がある企業も、新たにプロダクトを作る時には深圳に泊まり込み、プロトタイプの制作、テスト、そして量産、発送を行っているそうです。
つまり、IoT等のモノに関するサービスを提供する会社が増えるに従い、シリコンバレーのみで開発を行っていた時代から、シリコンバレーと深圳の”2つの都市”でサービス展開を行う生態系に移行しているのです。結果として、深圳は”コピーの巣窟”から”モノのイノベーション都市”へと進化したのです。
身近なあの企業も?? 深センにある企業
モノのイノベーション都市、深センには世界的にも知名度が高い企業が揃っています。その中のいくつかをご紹介します。
Anker(安克创新科技股份有限公司)
液晶フィルムも販売している
Ankerといえば、モバイルバッテリー、18ヶ月の長期保証が支持されているメーカーですね。また、同社のケーブル類は耐久性も高く、愛用者も多いようです。
キーボードや音響製品、液晶フィルムなども展開しており、シンプルでオシャレな梱包と長期間のサポートが人気です。Google検索出身の技術者数名で立ち上げられたことは、意外としられていないかもしれません。
ファーウェイ(華為技術有限公司)
https://youtu.be/UdM4n_Jk2uQ
カメラ性能がよい機種が揃うのも、同社の特色
元々は通信機器のベンダーだったのですが、皆さんご存知のようにスマートフォンを開発、販売する企業として認知されていますね。PCやタブレットなども販売しており、見た目もスタイリッシュで気になっている方も多いのではないでしょうか。
記事執筆時点(2019年5月末)において、中国国内でAndroid OSが使用できなくなったことによる、
ファーウェイの独自OSリリースの情報が飛び交っています。今後も、その動向に注意したいですね。
▼ファーウェイ独自OS関連(最新のGoogle検索結果へのリンク)
▼Huawei Japan公式サイト
テンセント(騰訊控股有限公司)
日常のあらゆるシーンで使われる、WeChatのサービス
日本ではすっかりおなじみのLINEですが、中国では同じ緑のアイコンの『WeChat(微信)』が盛んに利用されています。日本でQR決済サービスが多数登場する前に、『WeChat Pay』で個人間の金銭のやり取りも盛んに行われてきました。
テンセントはゲーム会社としても世界最大規模ですが、日本の企業(バンダイナムコ、集英社、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、カプコン、任天堂など)とも提携をしています。ゲームが好きな人にとっては、身近な中国企業の一つでしょう。
中国国内以外にも、さまざまな言語の動画が公開されている
経済産業省『キャッシュレスの現状と今後の取組(平成30年5月)』によると、”WeChat Payのユーザー数は2016年現在で2億ユーザー、モバイル決済シェアは11.43%(2015年)となっています。微信のユーザーは約9億ユーザー(2016年)”とのことですので、ポテンシャルのある決済手段の一つと言えるでしょう。
▼WeChat Payデイでは、抽選で1,000万人の買物が無料になりました
ZTE(中興通訊)
2画面スマホ(ドコモ MM Z-01K)
世界規模でスマートフォンのシェアが高い企業の一つで、日本でもキャリア販売の端末やSIMフリー端末がリリースされています。スマートフォンの子機として使える、ワンナンバーフォン ON 01など、ユニークな端末も各種ラインアップされています。
▼日本人が知らない中国「ZTE」の覇権、米国ではスマホ市場4位(Forbes)
▼ZTEジャパン公式ページ
まとめ
今回は中国のシリコンバレーと呼ばれる深圳の簡単な歴史・地理・潮流についてご説明いたしました。深圳がイノベーション都市へと急成長できたのは、中国の政策と都市計画、ビジネス生態系の変化、そして香港・広州に挟まれた良好な立地、この3点が揃っているからなのではないでしょうか。21世紀にハイスピードでイノベーションを生む深圳が今後どのように世界にインパクトを与えていくのか、これからも目が離せません。なお、次回の深圳シリーズ記事第2弾では、具体的に視察した場所をご紹介していきます。
関連書籍紹介:
『MAKERS — 21世紀の産業革命が始まる』
『メイカーズのエコシステム ー 新しいモノづくりがとまらない。』
参照:
・“What China can learn from the Pearl river delta”
・“East Asia’s Changing Urban Landscape: Measuring a Decade of Spatial Growth”
・“Shenzhen is a hothouse of innovation”
・“深圳スタイル”
[2019年6月5日アップデート]
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